症状の変化と能力障害のレベル

主観的評価|問診

検査の目的

「症状の変化と能力障害のレベル」に関する主観的評価は、以下のような目的で実施します。

  • 徒手的な理学療法で治療できるメカニカルな障害であるかどうかの鑑別診断
  • 症状を増強あるいは軽減する要因の確認
  • 被刺激性(irritability)の判定
  • 客観的評価の項目の選択
  • 治療効果の再評価

メカニカルな障害とは

メカニカル(機械的)な障害とは、摩擦、圧縮、張力、ねじれなどの物理的なストレスが、突然あるいは蓄積的に体のある構造(例えば関節構成体)に加わり、その結果生じる障害と定義されています。

メカニカルな障害は、徒手的な理学療法の対象と考えられ、主観的な評価の中で、患者の訴える症状がメカニカルな障害であるかどうか判断することが重要になります。

被刺激性

被刺激性(irritability)とは、”強い疼痛や不快感、感覚異常、麻痺を引き起こし、回復するまで比較的長くかかるわずかな活動”と定義されます。

客観的評価を実施する際に、過剰な検査をして症状を悪化させたりしないように、患者の症状がどの程度で悪化するのか、そして、その症状がどれくらい経過したら収まるのかを確認し、被刺激性の有無を確認することが必要になります。

検査の項目

「症状の変化と能力障害のレベル」に関する主観的評価では、以下のような質問をします。

  1. 1日24時間の症状の変化
  2. 症状を亢進・悪化させる日常動作・活動
  3. 症状を軽減させる要因
  4. 被刺激性

1日24時間の症状の変化

「1日24時間の症状の変化」では、症状が朝、昼、夕方、夜でどのように変化するかを聞き出すと共に、症状が特定の仕事、運動、姿勢によりどのように変化するのかを確認します。

夜について聞くこと

夜については、以下のような質問をします。

  • 夜、目が覚めるか?
  • どの痛み(症状)で起きるか?
  • どうすると痛み(症状)は軽減するか?
  • 軽減するのにどれくら時間がかかるか?
  • 横になって休めるか?

臥位姿勢は、立位姿勢と比べ、荷重関節への圧迫力が少なくなるので、基本的には安楽で痛みが軽減する姿勢と考えられます。

よって、臥位姿勢をとっても痛みが継続し、快適な姿勢が見つかるまでに時間がかかる場合、何らかの炎症性の障害がある可能性が考えられます。

また、疼痛が夜に悪化し、目が覚める位の強さである場合、徒手的な理学療法が適応となる機械的な問題ではなく、より重篤な病態(悪性腫瘍・全身炎症性疾患など)を有している可能性があるため、医師への報告が必要な場合があります。

また、四肢・体幹に可動域制限がある場合には、臥位姿勢を取ることで、局所へのメカニカルストレスが高まり、痛みが誘発される場合もあります。(股関節伸展制限→腰椎前弯増強)

枕の高さや布団・マットレスの硬さといった環境因子も、臥位姿勢におけるメカニカルストレスの増加に影響を及ぼすため、就寝時の環境についても状態に応じて確認する必要があります。

朝について聞くこと

朝については、以下のような質問をします。

  • 朝、目覚めたときはどうか?
  • 朝、起き上がる時はどうか?
  • 関節の朝のこわばりはないか?あればどれくらい続くか?

朝のこわばりが1時間以上続くようであれば、リウマチ、強直性脊椎炎、Paget’s病やその他の全身性の炎症性疾患を疑います。このような場合、炎症症状の程度に注意しながら、客観的評価の計画をすすめる必要があります。

朝のこわばりはあるが、痛みは少なく、軽い運動やシャワーの後に短時間でこわばりが改善する場合には、変形性関節症などの退行変性疾患と関係があると考えられています。

昼について聞くこと

昼については、以下のような質問をします。

  • 24時間で最も症状が悪化する時間帯は?
  • 症状を悪化させる日常動作・活動?
  • 症状を軽減させる要因?

症状は、日中の活動レベルに影響されることがあります。

症状が、仕事の内容、特にある特定の動作に関係して変化する場合は、メカニカルな障害と考えることができます。

また、夕方になるにつれ症状が増悪する場合には、メカニカルなストレスの蓄積により、症状が起きていると推察することができます。

症状を亢進・悪化させる日常動作・活動

症状を亢進・悪化させる日常動作・活動では、以下のような質問をします。

  • 症状が誘発される動作・姿勢は?
  • 動作、姿勢の特徴
  • 動作・姿勢の量
  • 症状があってもその動作・姿勢を続けることができるか?

症状を亢進・悪化させる日常動作・活動の情報を得ることは、問題のある構造や機能的な制限を特定し、客観的評価の項目を選択に役立ちます。

例えば、スクワットや階段昇降で症状が悪化する場合には、股関節や膝関節への問題を疑い、客観的検査の項目を計画します。

関節 機能的活動 動作分析
頸椎 上を見る 伸展
車をバックさせる 回線
座位での読書・書き物 持続的な屈曲
肩関節 シャツに袖を通す 伸展・内転・内旋
痛みのある肩を下にした側臥位 関節の圧迫
上方へのリーチ動作 屈曲
腰椎 座位 屈曲
立位・歩行 伸展
荷物を持ち上げる/かがむ 屈曲
股関節 スクワット 屈曲
歩行・階段昇降 屈曲・伸展
痛みのある側を上にした側臥位 内転・内旋
膝関節 スクワット 屈曲
歩行・階段昇降 屈曲・伸展
筋組織   筋の収縮・他動的伸張
神経組織   神経組織の他動的伸張・圧迫

症状を軽減させる要因

患者の訴える症状が軽くなるような姿勢、その他の要因を特定するために症状を軽減させる要因を聴取します。

この情報は、客観的評価および治療方法の選択、鑑別診断、被刺激性を判断する際に役立ちます。

被刺激性

被刺激性は、患者が訴えている症状と同じ症状が引き起こされるような日常の活動を判断基準として選択します。

症状が引き起こされる活動の強度、そしてその活動が原因となって生じる症状の重症度、さらにその症状が回復するまでに要する時間で、被刺激性を判断します。

被刺激性(irritability)を確認するために以下のような質問をします。

  1. どのような活動で症状が出現するか?
  2. どれくらいの時間、その活動を継続できるか?
  3. その活動の強度は、どれくらいか?
  4. 症状がその活動を制限するか?もし継続可能なら、それはどれ位の時間、活動を制限するか?
  5. 症状がどの位の強さまで悪化するか?
  6. 症状が正常なレベルまで回復するまでにどれくらいの時間がかかるか?

irritableの例

タクシーの運転中、バックしようとして左後ろを振り向いたら(軽度の負荷)、左の首の付け根と肩の後ろ、前腕にかけて疼痛が増悪(Pain:9/10)した。その後左側を向くのがつらくなり、バックするときはミラーを使わなければならなくなったが、2時間後には疼痛は若干回復した(Pain:6/10)。

判断理由

子の症例は、一度の回旋という軽度の負荷で、強い疼痛が出現した。また、その動きを止めた後でも長時間(2時間)疼痛が続いたため、irritabletという判定になった。

not irritableの例

クロールで40分泳いでいたら、息継ぎ(右側)の時に首の右側に疼痛(Pain:2/10)が走ったが、我慢できたのでそのまま20分泳ぎ続けた。疼痛は、(Pain:5/10)まで強くなったが、予定通り3km泳いで終了した。5分後にその疼痛は(Pain:0/10)消失した。

判断理由

40分の水泳という強度の運動の後に軽い疼痛が出現した。さらに20分継続して(5/10)まで強くなったが、水泳を止めると5分という短い時間で疼痛が消失したため、not irritableという判定になった。

判断基準

irribleかnot irritableかの簡単な目安として、活動に要した時間より、活動を中止してから症状が回復するまでの時間が長い場合、irritableと考える

参考

Elly Hengeveld他:メイトランド四肢関節マニュピレーション.医学映像教育センター

Nicola J Petty:神経筋骨格系の検査と評価

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