大胸筋を触察するためのランドマーク

体幹の筋を触察するためのランドマーク

はじめに

大胸筋は、胸部の前面に位置し、鎖骨部・胸肋部・腹部の3部から構成される扇状の大きな筋で、肩関節の内転、内旋の作用を持っています。

右胸部を前方からみた写真|大胸筋(赤)、小胸筋(青)

臨床において、肩関節の前方拘縮では、大胸筋と三角筋・上腕二頭筋短頭・小胸筋などの軟部組織の滑走不全が原因になると考えられ、大胸筋と隣接する組織を確実に触り分ける能力が求められます。

今回は、大胸筋を正確に触察するためのランドマークを紹介したいと思います。

大胸筋を触察するための指標

大胸筋の鎖骨部の外側上縁

鎖骨の中央やや外側方の部位のすぐ尾方で、三角筋胸筋三角(★1)を確認します。

次に、上腕骨の前面の近位1/3の部位(★2)を確認します。

大胸筋の鎖骨部の外側上縁の指標1



三角筋胸筋三角(★1)と上腕骨の前面の近位1/3の部位(★2)を結ぶ線が、大胸筋の鎖骨部の外側上縁の想定線になります(想定線1)。

大胸筋の鎖骨部の外側上縁の指標2



想定線1上に触察指を置き、隣接する三角筋や上腕二頭筋との境界を確認しながら、大胸筋の鎖骨部の外側上縁を触察します。

大胸筋の腹部の後外側下縁

腋窩前壁の中央部の後縁(★3)を確認します。

大胸筋の腹部の後外側下縁1



次に、臍(★4)を確認します。

腋窩前壁の中央部の後縁(★3)と臍(★4)を結ぶ線と第5肋骨との交点(★5)を確認します。

大胸筋の腹部の後外側縁の指標2



胸骨体の下端(★6)を確認します。

次に、臍と胸骨体の下端の中央部(★7)を確認します。

大胸筋の腹部の後外側縁の指標3



腋窩前壁の中央部の後縁(★3)、腋窩前壁の中央部の後縁と臍を結ぶ線と第5肋骨との交点(★5)、臍と胸骨体の下端の中央部(★7)の3点を結ぶ線が、大胸筋の腹部の後外側下縁の想定線なります(想定線2)。

大胸筋の腹部の後外側縁の指標4



想定線2上に指を置き、大胸筋の腹部を触察します。

第5肋骨より尾方の領域では、筋腹は薄く触知しにくい特徴があります。

大胸筋の鎖骨部の上縁

鎖骨の幅の中央部のうち、三角筋胸筋三角(★1)より内側に位置する部分が、大胸筋の鎖骨部の上縁の想定線になります(想定線3)。

大胸筋の鎖骨部の上縁の指標1



想定線3に指を置き、擦りを用いて、鎖骨上に位置する大胸筋の鎖骨部の上縁を触察します。

大胸筋の胸肋部の内側縁・内側下縁・下縁

胸部に位置する前正中線が、大胸筋の胸肋部の内側縁の想定線になります(想定線4)。

大胸筋の胸肋部の内側縁・内側下縁・下縁の指標1



第5肋軟骨から第7肋軟骨の前面が胸肋部の内側下縁(想定線5)、第5肋骨の下縁が胸肋部の下縁(想定線6)の想定線になります。

大胸筋の胸肋部の内側縁・内側下縁・下縁2



想定線4・5・6に指を置き、擦りを用いて、胸筋の胸肋部を触察します。

鎖骨部と胸肋部の境界

上腕骨の前面の近位1/3の部位(★2)を確認します。
次に、胸鎖関節(★8)を確認します。

鎖骨部と胸肋部の境界の指標1


上腕骨の前面の近位1/3の部位(★1)と胸鎖関節(★8)を結ぶ、やや外側頭方に凸に弧状の線が、大胸筋の鎖骨部と胸肋部の境界の想定線になります(想定線7)。

鎖骨部と胸肋部の境界の指標2



想定線7上に触察指を置き、大胸筋の鎖骨部と胸肋部の境界をを触察します。

おわりに

大胸筋を触察するためのランドマークを紹介しました。

正確に大胸筋を触り分けるには、今回紹介した視標に加え、大胸筋および隣接する筋の3次元的な位置や形状といった解剖学の知識、触察手順、筋を触知しやすい指の動かし方、大胸筋に特徴的な触察感を知ることが重要となります。

これらの情報を得るための、書籍および運動器系体表解剖セミナーを主催している研究会を紹介しますので、触察技術の向上にお役立てください。


たてやま整形外科クリニックのスタッフのみなさんは、TOC体表解剖勉強会の予習・復習にお役立てください。


今回もご覧いただきありがとうございました。

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